Mountain Kingへの訪問をメインに据えた今回の渡航。でもせっかくなら、イギリスのトレイルランニングイベントにも飛び込んでみたい――。そんな話から、マーケットリサーチを兼ねてレースに出場することにした。
「イギリスで、レースに出たいですね」
そう決めてからは早かった。イギリス全土のレースを検索しまくる。海外レースを調べるのは得意分野だ。リサーチの末に見つけたのが、Lake District Running Festival。歴史あるトレイルランニングイベント「Grasmere Gallop」と、英国発祥の山岳レース「OMM LITE」が組み合わされた2日間のアウトドアイベントだ。しかも開催地はイギリスが誇るアウトドアリゾート&ハイキングスポット、湖水地方。まさに理想の条件が揃っていた。
週末をキャンプとレースで楽しむアウトドアイベント
Lake District Running Festivalの拠点は、湖水地方の村・グラスミア。Grasmere Gallopは、5.7km、10km、17km、42km、ノルディックウォーキングや愛犬と一緒に走るカテゴリーと多彩だ。イングランドならではの言葉が「フェルランニング」。その起源は19世紀の羊飼いや農夫たちの徒競走だという。1970年にはFRA(Fell Runners Association)が発足し、現在に至る。丘陵地=フェルを舞台に、クロスカントリーともトレイルとも異なる、古くから続くカルチャーなのだ。
OMM LITEは、1日または2日、個人でもチームでも出場可能。ロング・ショートの選択もできる。OMM(Original Mountain Marathon)はイギリスが本拠地。もともとヨーロッパ(スウェーデン)発祥のオリエンテーリングは、1950年代に英国に上陸し、1967年には英国オリエンテーリング連盟が設立されている。以降、学生スポーツとしても発展し、全国にクラブが点在する。こちらも歴史あるスポーツ。
そのどちらも体験しよう!と、土曜日にOMM LITE、日曜日にGrasmere Gallop42kmに参加することになった。会場では、クラフトビールやスイーツ、記念メダルにOMMショップ、ワークショップまで揃う、まさに“フェス”だ。会場でのキャンプもOKで、前泊も可能。ローカルカルチャーを肌で感じるにはうってつけだ。
湖水地方の風景に心を奪われて
私たちはMountain Kingのあるニューカッスルから車で湖水地方を目指した。だだっ広い丘陵が、近づくにつれて緑の山並みに変わっていく。時折現れるまるで削り取られたような崖もインパクトがある。山の尾根がどこまでも繋がっていて、向こうの景色を想像するだけで胸が高鳴る。途中で車を止めたくなる衝動を抑えながら、巨大スーパーで買い出しをして現地へ向かった。

レイク・ディストリクト国立公園は、イングランド北西部のカンブリア州に広がる国内最大の自然保護区。面積は2,362㎢に及び、最高峰スカフェル・パイク、最深湖ワストウォーターと名所が多い。500以上のトレイルが整備されており、ピーターラビットの作者ビーアトリクス・ポターが愛した場所としても知られる。険しい丘陵と静謐な湖のコントラストは、多くのハイカーを惹きつけてやまない。点在する村々にはホステルから高級宿まで様々なスタイルで滞在する人で溢れ、ハイキングだけでなくゴルフやバイク、あるいはのんびりと過ごす人も訪れる。


グラスミアに到着し、会場に車を乗り入れる。車を横付けできる予想に反して駐車場とテントエリアが分かれていて、荷物を運ぶ手間はあったが、スタート地点の目と鼻の先にテントを張れたのはありがたかった。
現地はまさにテント博覧会。日本のOMM LITEでは山岳テントも多いが、ここでは大きなオートキャンプ用が主流らしい。ブランドや見た目より、広さと快適さ重視。ホームセンターや量販店で売っていそうな安価なテントが多いのも印象的だった。

ソロ参加の人は小さなテントを張っていた。明日は雨予報。どうするんだろう?と思ったら、テントは寝るだけ。大きなテントのある会場のフードブースで過ごしていた。食べて飲んで、喋って、トランプをしている人も。キャンプは目的ではなく、週末を楽しむ手段の一つなのだろう。


OMM LITE まさかの早起き失敗からスタート
初日のOMM LITEは6:00スタート……のはずだった? 私たちは4:00に起きて準備万端。しかし、周囲は静まり返っている。4:30、5:00、5:30……誰も起きてこない。これがUKスタイルか? 流石におかしいよ! と確認したところ、スタートはまさかの10:00、しかもウェーブスタートだった。5〜6時間も早く起きていた。なんというミステイク。

ようやく私たちの順番が来て、スタートに向かうと5チーム10人ほどが集まってくる。ウェーブの確認などない。スタッフの説明を受けて、指につける電子カードを受け取る。なんとなくスタートの合図がわからないままにスタートのコントロール、そして地図が渡された。地図をクリアケースに入れている間に、周囲のチームはあっという間に姿を消していた。

フィールドに設置されたコントロールポイントを、制限時間内で自由に回って得点を稼ぐ。私達の計画は、
1. 無難にポイントを取りに行く
2. リサーチなので、写真を撮ったり周りを見られないほど没入しない(できないけど)
3. せっかくだから景色が良さそうなところに行きたい
わたしはOMM出場経験があるがかなり久しぶり。Mountain King Japanの竹谷さんはローカルのオリエンテーリングイベント経験はあるがOMMは初参加、共にビギナーである。地図をざっと見ると、北には山々が広がり湖もある。南は町でロードも多い。まぁ、普通に考えて山を越え谷を超える方が厳しいが「綺麗な景色が見たい」と北上コースを迷わず選んだ。
本気のオリエンテーリングに度肝を抜かれる
誰もがぜったい取りに行くよね、というスタート地点近くのコントロールに向かっていると、短距離走なの?というスピードで10代か20代くらいの若い男の子チームが颯爽と走り去っていった。麓の牧場周りは石畳になっていたり、トレイルが細かったりと走りにくかった。

早速手近な山に取り付く。なかなかの急登りだが石段になっていてテクニカルではない。雨は霧雨になり、景色も見えるようになった。尾根に出てしばらく行くと、ようやく2つ目のコントロールをゲット。


そこから尾根を繋ぐ予定だったが、気が変わって谷へ向かう。これが失敗だった。谷底まで下りに下って、沢沿いを登り返す。どうやらショートカテゴリーの人は時間がかかりすぎるからほとんど選ばないルートらしかった。周りにほとんど選手がいないぶん、静かで美しいルートだったのは幸いだ。真横に聳え立つ山並みを眺めながら、目前の湿原を渡っていく。山に囲まれたカールが美しかった。

再び、最初の山から繋がる尾根に登り返すと、山の合間にある湖や沢、対岸の尾根が一望できた。地図の上半分の全貌が見える。木がない丘陵地は、地図を持たずとも見渡せるほどだった。周辺数キロのコントロールのある場所までだいたい見渡せる。つまるところ、もちろん地図は読めた方がいいが、それはあくまで距離や時間計測が主であって、この地では「このサーフェイスを走れるテクニック」と「走力」が勝負なのではないかと察した。


でもわたしたちには、【写真を撮ったり、レポートできるよう周りの選手たちを見る】というミッションがある。それにスリッピーな石段をかっ飛ばす彼らのようには走れはしない。驚いたのは、年配ランナーの多さ。親子ペアも、60代の親が30〜40代の子どもを引っ張る構図。もちろん中学生のような子どももいて、おじいちゃんのソロ選手もいた。


シューズが脱げそうなぐちゃぐちゃの沼地を雲の上でも走っているかのように突っ込んでいく。それってどういうテクニックなのよ、と思うくらい、独特なサーフェイスだ。雨はすっかり止んでいたが、足元は水浸しだった。

トレイルはすごく明快で、360度視界は良いのに、距離感が狂って地図がうまく読めない。あーだこーだと意見が食い違いながら、後半は時間に追われ、最終的にゴールへ駆け込む。なんとか時間内には戻れたが、上位チームのスコアは人間離れしていた。日本とはまるで違うOMM。これはもう、別のスポーツだと思うしかない。



Grasmere Gallop 42km カジュアルに、山を走る
2日目はGrasmere Gallopの42km。股関節に爆弾を抱えているわたしにとって久しぶりのレース。竹谷さんは今年挑戦する100マイルレースのためのトレーニングだと意気込んでいる。

42kmという距離なら、完走はできる。しかも今回はMountain Kingの新製品「Race Day」のテストも兼ねている。イギリスのフェルランニングはこれが初めてではないので、皆が序盤に飛ばしていくことはわかっていた。だから私は、自分のペースで淡々と走ることに決めていた。スタート後すぐにロードの登り。息を切らして歩き始める人たちを、じわじわと追い抜いていく。でも山に入ると、さすがにイギリスのランナーたちが強い。脚が長く、背が高い。手足の長い彼らに、まるで子どものような自分の足の短さではまるで敵わない。登りはほとんどが石段。段差が大きく、歩幅が合わないが、幸い長くは続かない。数分も登れば尾根に出て、そこからはしばらく波打つ丘陵を気持ちよく走ることができる。


ゆるやかに下ってはまた次の山に登り返す、その繰り返し。ヨーロッパアルプスのように、何時間も延々と登り続けるようなコースではない。少しの石段を登って尾根に出れば、また走れる区間がやってくる。Mountain Kingのサイモンからは「湖水地方は険しいよ、アップダウンがきつい」と聞いていたけれど、少しの石段はあれど、コースの大半は信越五岳やITJくらい走れるレースだ。




エイドは簡素で、これといったフードはないけれど、必要十分。そのくらいが肩肘張っていなくてちょうどいい。スイカのあるエイドでは喜んで口に放り込んだ。



30kmを過ぎた頃、関節や筋肉がようやく温まり、身体がスムーズに動き始めた。そのあたりから、マッドなトレイルが増えてきた。そこがこのレースのフィナーレだった。ぬかるみと石に足が取られる下りや滑りやすいトラバースやが続き、「滑る!」「ムリ!」と文句を言いながら歩くランナーたち。


でも私にとっては比較的、快適な区間だった。東南アジアのジャングルを走った経験があると、多少の泥やぬかるみなんて、むしろ楽しくさえ思える。お尻で滑るような場所もなかったし、そこまで神経質になる必要もなかった。滑る路面に嫌気がさして歩き始めたランナーたちを、何人も抜くことができた。最後は前日にOMM LITEで通った下り。道のりがわかり、うまく最後のペースを作れたように思う。ショートからミドルレンジで、前半張り切って突っ込みペース配分を誤りがちなのは世界共通だな、となんだか可笑しかった。

そんな調子で、気がつけばあっという間に42kmが終わった。道中ではエイドのボランティアと話したり、同じペースで走るランナーと言葉を交わしたり、景色の写真を撮ったり。観光気分で楽しんでいた私のような人たちは他にも多く、周囲もどこかのんびりした空気が漂っていた。

タイムを競うバリバリのランナーはごく一部。2日間で実に1800人近くがこのイベントに参加したそうで、OMMガチ勢を除けば、どちらかというと家族や仲間とイベントに参加するのが目的で、それぞれのペースやスタイルでサクッと走るという楽しみ方に見えた。
文化の違いを装備にも見る
意外だったのは、ほとんどがランパン派だったこと。このエリアが棘の植物や藪漕ぎもないコースだからだろうか。雨が降っていてもランパン!装備もレギュレーションの範囲内の最小限でザックはかなり少なかった。OMMのイベントだからか、ばっちり全身OMMでキメているランナーが多かった。ほかにも、UKブランドではRabが目立ち、柄物はほとんど見かけなかった。


最後に驚かされたのは、撤収の早さ。私たちがテントをたたむ頃には、ほとんどの参加者がすでに帰路についていた。休暇を自然のなかで過ごすことが、当たり前のように感じた週末の2日間だった。

次回は、Mountain King発祥の地であり、ファクトリーがあるニューカッスルで創業者のSimon King(サイモン・キング)を訪ね、彼らのものづくりの原点に触れ、原点を探る取材の模様は、次回のブログで詳しくお届けする。
文/写真:中島英摩(なかじまえま) ライター
趣味が高じてライターとなり、登山やトレイルランニングなどアウトドアアクティビティ、スポーツを中心に取材、執筆を行っている。トレイルランニングレースへの出走のほか、国内外の縦走路やロングトレイルを歩く。
