TRAIL BLAZEと共に北の大地へ

2017年からかれこれ6年間、Mountain kingのトレッキングポールを愛用しています。メインは「TRAIL BLAZE SKYRUNNER CARBON」の100cm、1本113gです。113gっていうと、みかん以上バナナ以下ってところでしょうか。その愛用ポールと共に、北海道は大雪山系へ行ってきました。

TRAIL BLAZE SKYRUNNER

 北海道には毎年のように足を運んでいて、いつもみんなが温かく迎え入れてくれて、なにかと “かまってくれる” 、わたしにとってはそんな場所です。縦走登山好きなら、北海道と言えば思いつくのが「大雪山系&十勝連峰縦走」ではないでしょうか。日本百名山の旭岳を含む広大な山塊です。北海道には梅雨がないなどと言われてきましたが、昨今は蝦夷梅雨などと呼ばれ長雨が続くこともあります。台風が通過することもあります。豪雪地帯であることは言わずもがな、それに天候不良も加われば、貴重な夏山シーズンでベストコンディションを狙いうちするのは容易ではありません。まして日数のかかる大縦走、飛行機での遠征など予備日も取りにくく、撤退話が後をたちません。簡単ではないからこそ人を魅了する、憧れのカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)なのでしょう。数年前から考え始めて今年ついに実現しました。

徐々に風が強くなってくる

 が、しかしやはりそう簡単にはコトが運ばないのが大自然の世界。旭岳(姿見)から十勝岳(白銀荘)まで2泊3日+半日予備ありのわりとゆとりある計画で、残雪から水を取れて雨の少ないグリーンシーズン前のタイミングを狙いました。結果はその5分の1も進めず撤退でした。時期は的確だったと言えるのは雨が一滴も降らず、雲はあれど霧さえもない、晴天。そう思えばコンディションは良好でまたとないチャンスでした。

 ただ、初日の昼過ぎまでの数時間、旭岳山頂手前の稜線で風が強く、一時的に稜線で待つも体温が奪われていく。ポールをしっかり握り、風に負けじと踏ん張ってはみたが足が前に出ない。「これは仕方ないね」と一旦中腹まで戻って避難。夕方には風がおさまり、翌日は晴天と読んでいたので、再アタックできると踏んでいました。小さな避難小屋で地図を広げてどうしようかと議論を重ねる。ここで不安材料になったのが、麓で見た天気予報。翌日が風速8〜10あたりだった…。でも自分が読んでいた予報とは違う… 明日はいいよ!とはわかってはいたが、追い討ちをかけたのはその場にいた全員が「この山域を歩いたことがない」「地形やサーフェイスを具体的に把握していない」ということ。後からちゃんと地図を見てみれば強風に吹かれるのは一部で、裏旭の幕営地あたりではマシになるとわかるのですが、「えっ!うそ!縦走やめちゃうの?」という焦りから冷静になれていなかったのでしょう。複数人でのパーティーだったこともあり、経験と体力、予定していたテント場までの距離・時間を鑑みて、初日のわずか数時間で引き返して下山しました。初めて足を踏み入れるエリアなのに確認していたのは、ルートやコースタイム、水場、熊のことばかりで、完全に準備不足、下調べ不足でした。

 と、まぁそんな訳で冒頭から大縦走計画は頓挫してしまったのですが、翌日と翌々日はやはり朝から晴れ、再度旭岳へ向かいました。白雲の避難小屋(現在は熊出没により閉鎖中)で1泊、裏旭エリアを歩きました。2泊3日が1泊になり、しかも初日はずいぶん手前の白雲までで良くなったことで皆で気を良くし、使わなさそうな荷物は車に置いて軽量化を計りました。軽量化において、トレッキングポールは使わないからと持たない人も多いですが、わたしはデイハイクだろうがトレイルランニングだろうがファストパッキングだろうがトレッキングポールは必ず持っていくようにしています。基本的には疲れを軽減しバランスよく歩きたいのでほとんどの登りで使っていますが、ゆっくり歩く時、人と話しながら歩く時に使わず歩くこともあります。それでもバックパックのサイドポケットにある安心感は絶大です。Trail Blazeで、たかだか2本で200ml(g)ちょい。コンビニのチルドパックくらいです。「杖」は、怪我をしてうまく歩けなくなった時、骨折した時のエマージェンシーとしても重要な存在です。

6月の旭岳

 最初に登るのは旭岳。百名山だからなのか、ロープウェイがあるからか、スニーカーやデニムなど登山者とは思えないような人も山頂を目指して歩いています。でも決して楽な山ではなく、高山植物の園から一段上がると火山ならではのゴツゴツした岩がそこかしこに転がっており、足を取られるようなザレガレに急峻な登り。登りが強い=ポールを使わない、というような妙なイメージを持つ人がいるのが不思議なのですが、ポールが上手く使えることは登山技術のひとつ。なくたって登れるけれど、身体の負荷を分散させて楽に登ることは、長時間運動には重要だと思うのです。縦走登山ではトレイルランニングよりも背負う重量があり、足腰への負担が大きくなります。段差の大きい階段や岩場もあり、そういった環境の中でいかに筋肉疲労を最小限に止めながら同じペースで歩けるかが大事だと思うのです。ポールをふわりと前に振り上げ、身体を前に押し出す。テンポよく登ったらあっという間に山頂。昨日の強風はなんだったんだろうかと肩を落としつつも、遠くまで広がる裾野の美しさに見惚れました。

行くはずだった縦走路

 裏旭の雪渓を一気に下ると、その先に現れるのはまるでどこかの星へ迷い込んだかのような異世界。そして、この時期ならではの谷筋に雪が残るゼブラ柄の山々。立体的で壮大な景色に何度も足を止めました。そこで感じたことは、果てしなさ。急峻な登りはそれほどないが、ずっと先の先まで見通すことができる一望千里。歩いても歩いても、なかなか近づかない、広闊な大地がそこに或るのです。ポールのストラップに手を通し、ほとんど握らずに振子のように振ってみるとそれはメトロノームのようで、頭のなかで歌をうたいつつ、ポールをリズムよくついて一歩一歩をかみしめるように進みました。大自然のなかでぽつんと立ちすくんだ時、自分なんてちっぽけだと感じることの心地よさったら。

白雲岳からの山並み

 白雲避難小屋に到着してなかを覗くとすでにたくさんの方が寝床を広げていて、入れるような雰囲気でもなくテント泊をすることにしました。向き合うようにテントを張り、雪渓の割れ目を流れる水を汲み、みんなで各々に用意した小さな食卓を囲む。日が長い夏の穏やかな夕焼け。夜がふけていくのを惜しみながら眠りに付きました。

白雲岳避難小屋

 2日目に歩くのは火口のまわりをぐるりと周回するルート。北海岳まで戻り、黒岳石室の小屋を経由して、北鎮岳、比布岳、安足間岳、当麻岳、裾合平と欲張って、姿見へ戻りました。ロープウェイのグリーンシーズン(始発が早い)の前で、人が少ない。それにそもそも残雪がかなり多く、渡渉の雪解け水も多くて深く、度重なる雪渓歩きとルートファインディングに向き合うことになりました。それがとてもウィルダネス溢れる世界で、縦走未達の悔しさが吹っ飛ぶひとときでした。雪に覆われたカール、天空の御花畑“雲の平”、この世とは思えない人の立ち入れないミステリアスな火口、空に浮かぶ火星のような稜線、どこまでも行けそうな長いトラバース。渡渉ではポールを支えに、流れに足を取られないように堪えて渡る。急傾斜の雪渓では4本足の動物のように登る。ヒリヒリした場面でもバランスを取るには相棒が助けになってくれました。後半の長い下りではもはや杖代わりのようにもなっていたけど、結局トータル10時間近く楽しみ尽くしました。

多く残る雪渓
雪解けの川で渡渉
火口は異世界
斜度のある雪渓をトラバース

結果的には縦走なら通らないようなルートを歩くことができ、これもまた良き出会いだなぁと満足して帰路に着くことができました。でも、カムイミンタラだと言って山や空の気まぐれを受け入れようとするのも良いけれど、撤退の理由はごまかしたくない。その土地の天候の特徴、縦走路のサーフェイスや風向き、攻略法などもっと調べておけることはあったはず。体力や度胸はあるほうかもしれないけれど、もっと山を、大地を、多面的に理解していかねばと痛感しました。山は逃げないというけれど、今日の自分はもう明日はいない。そう思って毎回の山行を大事にしていきたいものです。

中島英摩(なかじまえま) ライター
趣味が高じてライターとなり、登山やトレイルランニングなどアウトドアアクティビティ、スポーツを中心に取材、執筆を行っている。トレイルランニングレースへの出走のほか、国内外の縦走路やロングトレイルを歩く。

 

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